西本智実 ~ やっぱり女性は凄くて格好イイ
女流指揮者だ。男流指揮者とはいわないから、本当は女性であろうと単に「指揮者」とだけ言うべきかもしれない。しかし、女性の指揮者は極めて少ない。だからやっぱり女流指揮者と言ってしまう。
つい最近、親しい人から西本さんのことを教わった。クラシック好きの間ではとっくに当たり前の人物らしいのだが、私は知らなかった。学生時代にはクラシック音楽を浴びるほど聴いていたのだが、今年になるまでクラシックからはすっかり離れていた。だからここ20年くらいのクラシック音楽事情はほとんど分からない。西村知美は知っていても、西本智実は知らなかった。
かくして今回、いそいそと聴いてみたのはDVD盤でのチャイコフスキーである。
昨年のロシア響東京公演での交響曲5番と6番が収録されたもの。実にオーソドックスな組み合わせだ。オーソドックスというよりもバタ臭いといった方がいいか、或いは普通なら感動の渦が胃もたれしそうな組み合わせといった方がいいか。まあメンチャイのV協だとか運命と未完成のカップリングよりは筋が通っている気がした。
いや素人のくせに知ったような口振りになってしまった。決してバカにしているわけではない。
私は西本さんのことすら知らなかった素人リスナーだから、こういう味噌バタコーンみたいな組み合わせは間違いがなくて安心できるのだ。初めての演奏家は、やはり聴き馴染みのある定番曲で入った方が素人なりに分かりやすい。
さてHMVの過剰包装気味の梱包をバリバリと開けて、DVDプレイヤー(といってもXbox360だったりするわけだが)に盤を入れて、イスの上にあぐらをかいて、気楽に聴き始める。クラシックったって所詮は音楽。気分楽しく、いい加減に聴くのが心地よい。
クラシックやジャズを浴びていた学生時代は、分不相応にアキュフェーズのセパレートアンプだのタンノイのウエストミンスターだの、いやいや純銀製のスピーカーケーブルからでしょ、などとホザいて音符の一つ一つに対峙しておったわけだが、今は、ゲーム機のDVDプレイヤーと卓上テレビとその内蔵スピーカーである。これだけだ。こんないい加減な環境だから、音符を聞くのではなく音楽を聴けるようになった。
オーディオに凝り始めるとそのうちに主客転倒して、音楽はアンプやスピーカーの性能を比べるために聞くような様子になってくることを、私は知っている。だから、今期はオーディオはたいがいにしようと思っている。もちろん、いいオーディオだと隠れた音が聞こえたり臨場感が増したりして、それはそれで気分がいいことは間違いない。でも、大人になった今こそ、ハードの自己満足で音符のアラ探しをするのはぐっと我慢して、音楽を、聴き流したい。
ということでXbox360如きで視聴しているわけで、このあたり実は別の事情もあったりするわけだが、脱線もこの程度にしておく。続きはいずれ。
閑話休題、聴き始めの第一印象。
西本さん、かっこよすぎます。
写真だけ見ると男装の麗人風味の美麗さなんだけれども、実際の指揮姿はタダの麗人でも華奢でもなく威風堂々としている。それでいて決してイヤらしさがない。
宝塚の男役に通ずる感じもするんだ、でも、ちょっと違うかなあ、決して男だとか男風味だとか男を演じているとか、そういう大袈裟な様子ではない。そのまま自然に女性なわけ。まさに女性が指揮をしている。
ところが、男性から醸し出されるはずのフェロモンというか、オーラというか、そういうものも放出されている。シャキッとしている。だからといって中性的な不思議な感じがするわけでもない。
今まさに指揮台の上には、まことに女性がそのまま立っている。立っているのだ。実に格好よろしい。
演奏そのものはというと、この辺になると素人の私としてはどうにも浅薄な印象しか述べられないわけだが、若干背伸びして生意気を言ってみる。レコ芸の評論家みたいなアレをやってみたいだけなので、聞き流して欲しい。
まず最初に演奏される交響曲5番の出だしのテンポがやや遅めで、これは情感たっぷりに謳わせるのかと思ったところ、実はそうではなかった。チャイコフスキーを情感たっぷりに謳わせてしまったらどうなるかは私のような素人でもよくわかる。
かろうじて晩年のバーンスタインがこのスタイルで凄いものを披露していた様子だが、あれは晩年ますますモノノケを多数憑依させまくっていたバーンスタインならではのことであって、余人が真似したら大概ストコフスキーである。
この点、西本さんの演奏は、実にクールだ。乾いていて格好がいい。さながらギリシア彫刻の美麗な男性塑像を正面からとらえているがごとくの潔さがある。
クールといっても、淡々としているわけではなく、寸止めの感動をキープしながらの演奏というストイックさが秀抜である。逆説的で申し訳ないが、クールだから熱い。見かけもそうだが、良い意味で優等生的なまとまりの良さがある。
ここまで、安物の似非オーディオでの初見だから、実際の舞台に接するとどうなのかは不詳だが、私の素人的な感覚からするとまことに好印象な演奏であった。
今晩は気楽に音を浴びた満足感があった。
西本さんに限らず、女流指揮者大歓迎である。これだけ女性が活躍する音楽界で、女性指揮者が乏しかったことを意外に思った。
そしてこんな簡単なことを、ここに至って初めて意外に思った私自身、アホか、と思った。そう、男どもは皆女から生まれたことを忘失して、大概アホなことが多かったりするのである。


