― 司法修習生・司法研修所 

司法修習生って?
 司法試験に合格した後、法曹(弁護士・判事・検事)資格を得るための研修期間にある一種の国家公務員が司法修習生です。
 司法修習生は、最高裁判所に設置された「司法研修所」という研修期間に所属する身分です。その根拠は裁判所法66条から69条に規定されています。
 一種の国家公務員ですから、国庫から毎月給料をもらえます。基準は、国家公務員のキャリア組1〜2年目と同様の基準とのことですが、基本給月額20万円程度で、ボーナスもちゃんと支給されます。
 公務員ですから、当然、兼業は禁止です。アルバイトなどをしていると罷免されることもあります。

研修期間はどれくらい?
 司法修習生の研修期間は、1年6ヶ月です(数年前までは2年間でしたが、短縮されました)。
 この研修期間は、前期修習(3ヶ月)、実務修習(12ヶ月)、後期修習(3ヶ月)に3分類されます。

研修内容は?
 前期修習と後期修習は、埼玉県和光市にある司法研修所の建物で、修習生が一堂に集まって座学で講義を受けたり試験を受けたりします。
 私が修習した時代は、東京の湯島(東大の裏)にあったのですが、その校舎や講義システムは、殆ど高校のノリです。一クラス60名程度にクラス分けされ、始業時間になるとチャイムが鳴り、各自の決められた机に着席します。教官が入室してくると、一同起立して礼をします。この雰囲気は、まさに懐かしの中学・高校時代さながらです。また、講義中には、教官から適宜指名されて発言を求められたりすることが多いので、この発言の際には、起立して発言します。これらは別に強制されているものではありませんが、慣習的に皆自然に行っていますし、これは社会人としては常識の振る舞いだろうと思います(法廷でも、裁判官入廷の際には、起立・礼ですし、口頭弁論の際には、起立して発言するわけですから)。
 一方、実務修習は、これこそ司法修習の本体ともいうべきものです。
 前期修習でごく基本的知識を身につけて、各地方裁判所などにばらけて配属されて、実際の実務を研修することになります。この内容は次項で詳しくお話ししましょう。
 修習する科目は、民事裁判、刑事裁判、検察、民事弁護、刑事弁護の5科目で、これ以外にも一般教養的科目(法医学や会計など)も教わります。

司法研修所で使われる教科書の一部。
俗に「白表紙」(しらびょうし)といわれる。
極めて安価な装丁であるが、一般には市販されていない。
一部は、司法協会で販売されている。

実務修習
 実務修習は、日本全国の主要裁判所に、それぞれ修習生が配属されて行われます。この配属先は、修習生の希望も考慮しながら最高裁判所が指定します。大都市の裁判所は人気が高いので、希望したとしても必ず配属されるとは限りません。
 民事裁判、刑事裁判、検察、弁護をそれぞれ3ヶ月ずつ交替に研修します。裁判修習は地方裁判所、検察修習は地方検察庁、弁護修習は法律事務所に実際に入って、裁判官や検察官の仕事ぶりを見ながら、実際に法廷に立ち会ったり、取調をしたり、判決や訴状の下書きを起案したりします。
 私は東京で修習しましたが、日本の第一線の裁判官や検察官などと多く触れ合う機会があって大変面白くためになりました。
 ちなみに、多くの修習生の感想として、検察修習が一番面白かったです。
 被疑者の取調という未知のものに触れられたことや、司法解剖というショッキングな場面に立ち会ったこと、颯爽と大事件を解明する特捜検事らと呑みに行ったり、日々飽きの来ない研修でした。
 もちろん、裁判修習や弁護修習も面白かったですが、裁判修習は、裁判官室と法廷の往復ばかりで「静」の修習という感じでしたし、弁護修習はあまりにも行動範囲や事件取扱範囲が広くて「動」の修習という感じで、実は弁護修習では、弁護士の仕事のなんたるかはさっぱりつかめなかったというのが本音です。

後期修習と起案
 実務修習が終わると、再び司法研修所に一同会して後期修習が始まります。前期修習と同様の座学ですが、皆、実務修習を1年経験して実務感覚を植え付けられているので、前期修習のような頓珍漢な風情ではありません。
 一方的に教官の話を聞く講義形式の授業は減って、逆に、「起案」と称して、仮想事件記録を与えられて、これに沿った判決や起訴状、訴状などを起案させる一種のテスト的な授業が多くなります。
 この「起案」には、即日起案と自宅起案の二種類があります。
 自宅起案は一種のレポート的宿題ですから、〆切までに自宅で書類を書き上げて提出することになります。
 一方、即日起案は、当日の朝、記録と問題を渡されて、当日の夕方くらいまでに書き上げて提出するというものです。実際の事件記録に基づいた仮想案件の起案ですから、記録を読んで整理するだけでも数時間かかりますし、起案するのにもまた数時間かかります。結局一日仕事になってしまうわけです。
 この起案は、後日、担当教官が添削して、講評が行われます。司法研修所には、表向きの成績評価は存在しませんが、実際には内部資料として成績評価が行われており、実務修習の研修態度や起案の評価などで修習生をランク付けしているようです。
 このランク付けは、裁判官や検察官になる場合には、採用時の有力な参考資料にされているようです。弁護士になる場合には全く関係ありません。
 私は、後期修習のころには弁護士になることに決めていたので、卒業さえできればよく、起案の評価などは余り気にせず、のびのびと過ごしていました。他方、任官希望者などは必死に勉強していたようです(笑)。

2回試験
 司法研修所は、最後に修了試験があります。
 この修了試験にパスしないと卒業できません。つまり法曹資格は得られないわけです。この修了試験は、俗称「2回試験」といわれています。司法試験を1回目の試験と考えて、その次にくる試験だから「2回」試験です。
 2回試験は、研修所で教わる5科目+一般教養科目を論文試験と口述試験のそれぞれで試されました(私の時代)。
 1科目丸一日を使って行われる試験で、考えようによっては司法試験よりハードです。昼時を通して試験をやるので、朝、弁当を持ち込んで試験場に入り、そのまま缶詰になって、私語厳禁のまま、弁当を自席で食べながら試験に臨むという具合です。司法試験が、かつての中国の科挙になぞらえられますが、試験の形態からすれば、2回試験の方がよほど科挙的です。
 試験の内容は、司法試験のような抽象的法解釈ではなくて、実際の事件記録を渡されて、それに対する判決や訴状を起案するという極めて実務的なものです。
 後期修習中に即日起案が頻繁に行われますが、これは2回試験の一種の模擬試験的な感じになります。
 なお、この2回試験に落第すると、卒業が半年延びて追試を受けることになるようですが、落第するものは年に数人だけです。これは2回試験が「甘い」試験だからではなく、それだけ修習中に皆ちゃんと研修するので落第しないという結果です。
 精神的にはハードな試験ですが、普通に1年6ヶ月の研修をこなして常識的な法的思考力が養われていれば、まず落第しないと考えて良いでしょう。

就職活動
 2回試験にパスすると、その後卒業式があり、晴れて法曹資格が与えられます。卒業式当日から、弁護士登録も任官もできるわけです。
 もちろん、例えば防衛大学のように、卒業後に法曹になることが義務化されているわけではありませんので、研修所卒業後に、法曹にならずに公務員になったり会社に戻ったり学者になったりする人も少なくありません。私の同期でも、警察庁に戻ったもの(彼は修習生当時既に警視のランクにいたので、あだ名は「署長」でした(笑))、某大手銀行に戻ったもの、某有名大学の助教授になったものがいます。
 法曹になりたい場合は、卒業式の時点で初めて任官希望を出してもすぐ採用されませんから、卒業を見込んで、実務修習の後半くらいから就職活動をするのが普通です。
 だいたい後期修習のころには、法律事務所や裁判所・検察庁などから内定をもらえます。ただし、裁判所や検察庁はそれぞれ100名程度の定員がありますから、希望してもなれるとは限りません。法律事務所は定員はありませんから、任官できなくとも必ず弁護士にはなれます。極端な話、法律事務所に就職しなくとも、いきなり一人で事務所を開いて独立開業することも可能です。ただ、東京などの都市部では、いきなり一人で独立開業することは希で、殆どは3〜5年程度はどこかの法律事務所に所属して勤務しながら弁護士実務を一層研鑽することが多いです。私も5年間勤務弁護士をした後に独立しました。

修習生の暮らし
 ここまでお読みになられると、司法修習生は、勉強したり起案や試験があったりと大変そうだなぁと思われるかもしれませんが、実際は、かなりお気楽です。法曹は、皆異口同音に司法修習生時代を懐かしむものです。
 なぜお気楽かというと、「責任がない」の一言に尽きます。判決や訴状の下書きを書いて仮に失敗しても、指導担当の裁判官や弁護士が責任を負うだけで、修習生は無関係です。もちろん、修習生が書いたものがそのまま表に出るわけではないのですが、逆に、自分が起案したものがそのまま採用されれば、それは裁判官や弁護士並の仕事ができたということになるわけで、大変嬉しいものです。
 また、比較的時間も自由です。公務員ですから朝9時から夜5時までは就業時間ですが、それ以外は残業を強制されるわけでもなく、もともと与えられている仕事がそれほど多くありませんから、無理なく研修ができます。研修の合間には、研修旅行なども多くあって、刑務所や少年院を見学したりするイベントが盛りだくさんですし、裁判官や弁護士に連れられて呑みに行く機会もあります。
 こういうアフターファイブの楽しみとしては、弁護修習の時に、銀座のクラブに初めてデビューした日が忘れられません(笑)。とはいえ、自分の事務所を構えた未だに、自費で銀座に行くことはありませんが。
 それから、修習生仲間でセッティングした合コンや旅行などもあったりして、殆ど社会人1年生のノリで気楽に過ごしているというのが実態です。
 こうやって最後の青春を謳歌して、自己の選択する道に従って、弁護士、判事、検事にそれぞれなってゆくのです。
 

<東京弁護士会所属>
弁護士 小 川 義 龍
<第一東京弁護士会所属>
弁護士 遠 藤 幸 子

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