弁護士不足って本当? 


要旨

弁護士じゃなくて裁判官が不足している
司法試験合格者が増員されても、その中から採用される裁判官や検察官の枠はそれほど変わっていない。弁護士ばっかり増えて、裁判官が足りない。だから、訴訟も遅延するばかり。 

解説

私が司法試験に合格した10年前は、合格者の人数は500人だった。今は1000人。法曹不足の声に応じたものだ。
 しかし、この合格者のなかから、弁護士だけでなく裁判官、検察官が採用されるのだが、弁護士には採用枠はないのに対して、裁判官、検察官はあわせて数百人と毎年の採用枠が決まっている。半分以上は弁護士になる(orならざるをえない)のだ。
 この採用枠は、司法試験合格者の人数が増加しても、漸増してはいるものの大幅増加とはなっていない。だから、弁護士ばかり増えて、裁判官や検察官はそれほど増えていかないという事態も予想される。
 「裁判は時間がかかりすぎる」とよくいわれる。
 世間の耳目を集める裁判は、慎重な審理を期するため、ある程度長期化せざるを得ないのは当然のことだ。でも、確かに、簡単な債権回収や離婚事件の類でも半年から一年くらいかかることはざらだ。これは、私から見ても時間がかかると思う。時間をかけている間に、相手が倒産などしたら目も当てられない。
 これはなぜか?
 弁護士が不足しているとか忙しすぎるという理由だけからではない。裁判に時間がかかるのは、裁判官の都合だ。
 どういうことかというと、裁判に時間がかかる最大の理由は、期日間が1ヶ月以上空くことだ。つまり、法廷が開かれて、次の法廷期日が来るまで通常1ヶ月以上間隔を置くのだ。
 なぜこんなに間隔を置くかというと、裁判官が抱える事件数が多すぎて、法廷の予約が1ヶ月先までいっぱいだからだ。例えば、東京地裁の民事部の裁判官は、多忙な弁護士一人で抱えている何倍もの事件数を処理している。だから、いくら弁護士が、「今日の法廷を明日続行してください」とお願いしても、別事件の先約が入っているから、ずっと先まで待たされてしまうのだ。歯医者の予約と同じだ。
 弁護士は依頼者と何日かに分けて打ち合わせをするにしたってそんなに待たせることはない。翌日は無理でも、せいぜい翌週また来てくださいとか、緊急の場合は翌日の予定をやりくりしてでも面談する。
 裁判所はこういう融通が利かない。
 私は多忙な裁判官を批判しているわけではない。裁判官には本当にご苦労様といいたい。弁護士よりよほど真面目に仕事をしている方が多いし、頭脳明晰だと思う。
 私が批判したいのは、裁判官不足をもたらしているお役所の実態だ。極論すれば、弁護士と同じように、裁判官や検察官の採用枠など撤廃してしまえばいい。司法試験合格者には、裁判官や検察官になりたいのに、採用枠の関係で、せっかく任官を希望しても採用されなかったものがたくさんいる。こういうことをなくした上で、司法試験合格者数を増やしていかないと、片手落ちだと思うのだ。
 法曹人口全体が増えることは構わないと思うが、裁判官や検察官が増えないのであれば、裁判の遅延などは絶対に解消されない。
 確かに、裁判官や検察官は役人だから、国家予算(給料)に限りがあることや、役所設備(机の数)に限りがあることはわかる。そのための採用枠だ。しかし、予算や設備に限りがあるのに司法試験合格者だけ増やして採用枠は増やさないというのは本末転倒ではないか。
 予算や設備も増やしつつ、それに見合う採用枠をも増やしつつ、そうして弁護士・裁判官・検察官がバランスよく増えるような司法制度を作り上げてゆかなければならないはずだ。
 それを裁判に時間がかかるのは弁護士が不足しているからだと言い放ってしまうのは、余りにも実態をしらなすぎる意見だ。マスコミにこういう論調があるが、猛省を促したい。攻撃する敵が間違っているぞ。

補足

 先日、日経新聞で、かの中坊公平先生が、弁護士不足について指摘し、大幅増員について意見しておられた。
 私は中坊先生の孫弟子にあたる立場なので、先生を尊敬しているし、その意見はそれなりに熟慮の上のことと思っている。
 弁護士増員については、裁判官や検察官の増員もなされ、かつ現状の弁護士数でもできるだけの質の向上(例えば、事務職員の質の向上と職務分担など)を図った上のことであれば、異論はない。
 しかし、中坊先生がおっしゃるような、今の何倍もの増加をする前に、もっと弁護士業界・法律事務所組織を改革する必要があるというのが私の意見だ。中坊先生のご意見は、紙面を読む限り「質より量」と読めてしまうが、そうではなくて、まずは「量より質」の確保。その上での量の確保ではあるまいか。
 即ち、法律事務所の企業的体質の確立だ。
 私の思うところはまた稿を改めることにするが、要するに
 ・弁護士だけが法律事務を抱える体質を改めて、パラリーガル(準弁護士)の養成を図って、法律事務所内の事務の分散化を図る
 ・パラリーガルの養成方法として、弁護士会による法律事務職員資格検定・義務的研修制度を新設する
 ・弁護士や司法書士、弁理士、税理士などとの協働関係を一層確立する
 ・法律事務所の法人化、大規模化の推進
 ・年功序列でなく、能力のある事務職員には能力に応じた待遇を与える
 こうやって既存の弁護士の中だけでも変革させてゆく余地が大いにあり、単に頭数だけ増やす議論だけでなく、実質的変革をさせる議論こそ重要に思っているのだ。





<東京弁護士会所属>
弁護士 小 川 義 龍
<第一東京弁護士会所属>
弁護士 遠 藤 幸 子

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